和歌と俳句

橋本多佳子

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

沼氷らむとするに波風たちどほし

頭勝なるの身すぐにくつがへる

凍て死にし髪吾と同じ女の髪

冬の日を鴉が行つて落して了ふ

風の中枯蘆の中出たくなし

枝交へ枯れし柘榴と枯れし櫻と

威し銃おどろきたるは吾のみか

ラヂオ大きく枯山のふもとに住む

枯れはてて遊ぶ狐をかくすなき

何をか待つ雪着きはじむ松の幹

風邪髪の櫛をきらへり人嫌ふ

風邪髪に冷き櫛をあてにけり

泣きしあとわが白息の豊かなる

いぶり悲しくてつい焔立つ

激しき心すでに去りたる炉火の前

死ぬ日はいつか在りいま牡丹雪降る

雪窪に降る愛を子の上に

忘られし冬帽きのふもけふも黒し

咳が出て咳が出て羽毛毟りゐる

毟りたる一羽の羽毛寒月下

寒月に焚火ひとひらづつのぼる

いまありし日を風花の中に探す

五位鷺飛びて寒の茜をそれてをり

聖夜讃歌吾が息をもて吾涜る

燭の火と炉火が燻る聖歌隊黙し