和歌と俳句

橋本多佳子

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死ぬ日はいつか在りいま牡丹雪降る

雪窪に降る愛を子の上に

忘られし冬帽きのふもけふも黒し

鷄しめる男に雪が殺到す

鶏の臓剥してぬくし雪ふりをり

鷄の血の垂りて器に凍むたゞこれのみ

咳が出て咳が出て羽毛毟りゐる

毟りたる一羽の羽毛寒月下

寒月に焚火ひとひらづつのぼる

いまありし日を風花の中に探す

五位鷺飛びて寒の茜をそれてをり

聖夜讃歌吾が息をもて吾涜る

燭の火と炉火が燻る聖歌隊黙し

層見せて聖夜の菓子を切り頒つ

冬霧ゆく船笛やわが在るところ

冬の航はじまる汽笛あふれしめ

海渡る黒き肩かけしかとする

大綿は手に捕りやすしとれば死す

真青な河渡り終へ又枯野

河豚の血のしばし流水にまじらざる

河豚の皿燈下に何も残らざる

ジヤズに歩の合ひゐて寒き水たまり

河豚の臓喰べたる犬が海を見る

冬の旅喫泉あふれゐるを飲む

雪マント被けばすぐにうつむく姿勢

若さかくさず冬帽に雨の粒ふえゆく

まくなぎの位置さだまらず雪の上

雪激し一つの地窪埋めむため

梳りゐて雪嶺の照る曇る

馴るるまで雪夜の枕うちかへし

雪の昼ねむし神より魔に愛され

雪の日の登校クレヨン画大切に

冬駅の名を一つづつ伊賀に読み

師の前にたかぶりゐるや冬の濤

ゆらゆらと月のぼるとき師と立てる

濤高き夜の練炭の七つの焔

うち伏して冬濤を聴く擁るゝ如

冬鴎百姓たゝせたゝせ来る

寒月下海浪干潟あらはしつつ

万燈のどの一燈より消えむとする

離るれば万燈の燈となりにけり

一つづゝ落暉ふちどるみな冬鹿

毛絲編む手の疾くして寄りがたき

冬日の蜂身を舐めあかず羽づくらふ

林檎齧る童子冬日を落しつゝ

日の翼冬蝶遊びほほけたり

冬の蝶童女の顔をのぞきては

童女より冬蝶のぼるかゞやきて

鞦韆を漕ぎはげむ木々枯れつくし

童女の眉馥郁として雪を吊る

一夜の島月下の石蕗の花聚まる

海よりの雨激しくよせる石蕗の花

河豚煮るゆげ誘はれて海渡りたる

昨日海に勁かりし星枯野に坐る

莨火にも由布の枯野の燃えやすき

野火立ちて由布野の小松つひに燃ゆ

野に寝れば髪枯草にまつはりぬ

狐の皮干されて枯るゝ野より悲し

赭崖の氷雨の八幡市すぐ暮るゝ

凍る嶺の一つ嶺火噴きはゞからず