和歌と俳句

枯野

空色の水とびとびの枯野かな たかし

日光はうつろ充たして枯野かな 水巴

枯野はも縁の下までつづきをり 万太郎

枯野ゆくや山浮き沈む路の涯 不器男

赤松を風来て鳴らす枯野かな 秋櫻子

蒼天に日輪坐る枯野かな 秋櫻子

猛犬のふぐりゆゆしき枯野かな 秋櫻子

大いなる茶屋を囲める大枯野 みどり女

八方に山のしかかる枯野かな たかし

大石の馬をもかくす枯野かな たかし

どん底を木曽川の行く枯野かな たかし

柵をくぐつて枯野へ出た 山頭火

枯野まつすぐにくる犬の尾をふつて 山頭火

大枯野傾き山を低うせる 誓子

ただ見る起き伏し枯野の起き伏し 誓子

渤海を大き枯野とともに見たり 誓子

鞍山の枯野に紅き熔鋼をながす 誓子

枯野来て帝王の階をわが登る 誓子

枯野ゆく大き車輪に紅の輪を 誓子

汽車はやく枯れし野を日をしりへにす 誓子

掌に枯野の低き日を愛づる 誓子

西方に垂天と遠き枯野見き 誓子

けふ一日枯野見くらし妻を恋ふ 誓子

空ゆけば十方あかるく枯野黄に 誓子

楼に見て枯野は遠くより来る 誓子

楽浪郡枯野をかへし丘を掘りぬ 誓子

葬り火も人もあらはに枯野かな 爽雨

大いなる枯野に堪へて画家ゐたり 林火

沼遠くひかり来りし枯野かな 万太郎

夕日赫つと枯野白堊にぶつかり来 しづの女

雁列の突つたちしづむ枯野かな 爽雨

巨椋池なりし枯野を見に舸子と 爽雨

枯野ただ大き起伏をして果てず 素逝

城市遠く枯野の波のかなたかな 素逝

家まれに枯野のうねり道のうねり 素逝

汽車の汽缶闇に枯野をひきさりぬ 彷徨子

目をつむりはろばろ来ぬる枯野あり 素逝

かの丘にこれの枯野に友ら死にき 素逝

彼をうめしただの枯野を忘るまじ 素逝

いくさゆゑうゑたるものら枯野ゆく 素逝

手を口にあげては食ふ枯野人 草田男

夕鴉声おとしゆく枯野かな 占魚

犬屹と遠ちの枯野の犬を見る みどり女

門前の小さき枯野のよき日和 たかし

遠ざかる背のいつしんに枯野かな 友二

晴れゆくにつれて風たつ枯野かな 占魚

手賀沼のわけなくみゆる枯野かな 万太郎

一句二句三句四句五句枯野の句 万太郎

わが汽車の汽罐車見えて枯野行く 波津女

我のみの枯野の我の立ちあがる 草田男

大小の荷が歩みゆく枯野父子 草田男

赤きもの甘きもの恋ひ枯野行く 草田男

獄を出て枯野や新たなる墓標 不死男