和歌と俳句

川島彷徨子

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枯れ果てし地上シェパードいそぎゆく

冬薔薇にわれより若き人ねむる

墓地の上測候所白き旗かかぐ

赤筋の手袋ながら借りかへる

八つ手ちかき干布団蜂蠅とゐる

猟銃をむけるや犬の眼あをみたる

凧ゆれてゐる町へ用はなけれども

ひかる野の芝むらさきの芽をひむる

溝鼠金雀枝の下ゆききする

蠅きえて空みづみづと眼にもどる

あたたかや指紋べたべた卓にゆく

春風にまぶたをそめてひときたり

雹あれし芽木のなか熱あるごとし

航空燈みつつ遅日の山くだる

水浴びのひとらにまじりあるきにいづ

本流は冷え冷えと泳ぐ人すくなき

乾草のみち帰京するひとに逢ひし

水著かわくさびしさ潮みちてくる

ねそびれて蛾の卵生むをみてゐし

何かおこるらしき雪解の闇ゆらぐ

雪汁のあひとなりして澄めるあり

土手こして千鳥枯野へちらばれる

日にこげる羽織の香肩をあふれくる

鏝を焼く炭の香襖もれてくる

雛の夜の父の部屋灯ともらずある

花の屑寄るとみえしが渦なせる

もとの枝にもどりきし鵙贄もてる

天に消え花片ひかりとなりきたる

草屋根につよい日ざしがおりてくる

雲翳り森のみどりをいだききぬ

向日葵に雲壘々とかさなれる

白雲に椿の貝殻虫も照る

アスファルト驟雨に冷えて灯をうつす

風にみだれ十三夜すぎぬ萱の花

汽車の汽缶闇に枯野をひきさりぬ

窓にある空ふかし煖炉なほたかず

芝の上にけふの落葉はつやをたもち

寒さにゆがむ郵便なりわれもゆがみてあり

みてあれば陽炎ちかづきくるごとし

養蜂の拡散はげし四方蜜源

柑橘へ花圃の蜂群うつりけり

蜜分離網戸へ蜂がきてはとまる

伏してゐる銃身をとぶきちきちあり

霧ながら青空の影園にさす

靴の先に青草の実がつまりゐぬ

汗冷えて発つやたちまち汗ふきいづ

連嶺に雪きしこわねすみとほる

痔いたしくらやみさぐり葡萄食ふ

還送者絽刺に日向もとめゆく