毛虫焼くちいさき藁火つくりけり
たかきところたかきところと蜩が
枇杷食べてまだ夕飯に暇のある
祭に心のこる驟雨のバスに乗り
高原の桔梗にひくく雲すみぬ
青葡萄と秋刀魚と海を恋ひにけり
丘の起伏桜の園も枯れにけり
野分の砂さらさらと穴へこぼるる
一握の砂に草の実まじりけり
棺の上に枯草まじる土おとす
姉の墓地上は雨に枯れいそぐ
風呂に浮く青き草の実追ひにけり
落葉いつしか道こえて田にもたまれり
うらみちや短日の沼みゆるところ
四時まへの林に燃ゆる火雲みつ
鴨たつ音縁の日向にききにけり
黄塵の巷の日向人を見ず
夜更の灯うつし硝子に雪つもる
あたたかやうすむらさきの玻璃の玉
さびいろに海盤車のひかる春の暮
おもかげよきんぽうげこそ泣かまほし
セルあつく野茨の垣とほりけり
烏豌豆さがす子のエプロンに風あがる
クローヴァーの花咲くをまちし姉ははや
胡瓜の葉うごくにふかき空を知る
うつぼぐさ川霧さりしあかるさに
ベーカリーにもどりレモンにあたたまる
日光浴冬薔薇咲けば淋しからず
練習機雪山にそひまはりくる
鶺鴒がきしひさびさのにはたづみ
庭の冬ひさしぬかるみに鶫きつ
黄塵の障子あかあかと日のびけり
友の卒業ちかしざんげの心もつ
寒雲雀家しんと土手の下に見ゆ
山火事ははるかなるかもよ鷄ゐつ
薔薇移す霜にいたみし花を剪り
麦が穂をゆすればか誰もいでてこず
クラリネットひかりのごとく南風にきこゆ
白南風にしきりにふかむ蠅のこゑ
雹の粒とけつつ苔の上にたまる
バンガローの丘はクローヴァーの花ざかり
網戸ごしに雲灼く入日卓を灼く
要冬青こす西日こころよし単衣
犬の飯饐えゐる鍋を鷄つつく
水無月のとほき雲けふもとほくあり
水著にて乗りしにバスに父ゐたり
草刈るや果樹林に光しみ透る
すぢ雲をたかくもゆくや鳧の群
枯沼やたのしきときは口笛も
枯芝の風ゴチックの扉にひかる