和歌と俳句

野分

御簾几帳吹きゆがめたる野分かな 虚子

女出て野分の門をとざしけり 虚子

野分の灯たづぬる人にまたゝけり かな女

みちのべの狗尾草も野分かな 鷹女

まよひ猫飼ひて野分の母と子と かな女

ふるへ居る棕櫚の葉もある野分かな 虚子

朝顔の濃紫なる野分かな 石鼎

鶏を吹きほそめたる野分かな 虚子

石垣の高くめぐれる野分宿 風生

紺青の空や野分の戸をあける 

野分の砂さらさらと穴へこぼるる 彷徨子

茂吉
わが庭に 野分のかぜの 吹く見れば 靡かふ羊歯の 向さだまらず

茂吉
野分だつ 空のはるけく たなびきて あさぎのいろや 澄みわたりたる

大いなるものが過ぎ行く野分かな 虚子

鳩我に身をすりよする野分かな 虚子

中空を芭蕉葉飛べる野分中 茅舎

雨やんで野分の庭に一家族 立子

胸はりて野分に鳩のたゆるさま 立子

大木のもまれ疲れし野分かな たかし

目覚むれば潮騒ぎをる野分かな たかし

土産店客に野分の戸を細目 虚子

我が息を吹きとどめたる野分かな 虚子

飛んで来る物恐ろしき野分かな 虚子

自動車に落葉はりつく野分かな 立子

人ひとり入れて締りぬ野分の戸 たかし

入相の茜むなしき野分かな 青畝

病人に野分の夜を守りけり 虚子

吹き落ちしものを笞に野分の子 汀女

夕野分厨に筧ほとばしる 蕪城

我が叫ぶ声もいぶせき野分かな 占魚

隠家も現はになりし野分かな 虚子

衰へし野分に鴉一羽飛び 虚子

初野分はれてしづかに月ひくく 石鼎

野分して芭蕉は窓を平手打ち 茅舎

本門寺野分に太鼓打ちやめず 茅舎

野分跡暮れ行く富士の鋭さよ 茅舎

牛の舌まれに歯をもれ大野分 楸邨

古都を守る弓矢八幡野分吹く たかし

蹄鉄の打たれやまざる野分中 波郷

硝子戸や野分の野路を見に行かむ 波郷

顔出せば鵙迸る野分かな 波郷

野分きし翳をうしろに夜の客 林火

地鳴りして火を噴く山の野分かな 占魚

提灯を吹かれ野分の迎へ人 虚子

火を焚いて野分の中を汽車過ぎつ 誓子

汽罐車のあとには燈なき野分かな 誓子