和歌と俳句

星野立子

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桃食うて煙草を喫うて一人旅

秋の夜の一夜泊りの旅鞄

月の下赤城榛名と指さゝれ

下り簗時々蝶のきては去る

午後からの水の少なき下り簗

突然との中より子等の声

舷に物ふるゝ音霧の中

吾亦紅ばかりの草に霧這へる

髪結うてくれる吾が子に赤とんぼ

蝶とりし網を伏せおく蛍草

行く我をひとめぐりして秋の蝶

遠目にも黄色き秋の蝶なりき

門入りてまづ夕方の白芙蓉

秋の蚊を追へば真白きナフキンに

自動車に落葉はりつく野分かな

雨雲のちぎれ秋空まだけはし

遠足の子等に交りて紅葉山

夜寒の灯雨戸開ければ庭石に

家にゐること珍しき庭の柿

静かなるわれにとんぼもとまり澄み

椋鳥のこぼれ残りし梢かな

椋鳥の木の実の嘴を右往左往

花火上るはじめの音は静かなり

来る人の今日かあしたか初嵐

遠の花はたゞ黄色なり初嵐