日のさして今おろかなる寝釈迦かな
たてまつるばらを嗅ぎ居る涅槃かな
田にあればさくらの蕊がみな見ゆる
大空に田がひらめけり甘茶佛
露を飲む瑠璃鳥や涅槃の楢林
死近しとげらげら梅に笑ひけり
きさらぎの風にも覚めぬ翁かな
きさらぎの灯のさしこめる柩かな
春水や障子とざして観世音
鶯に父の葉書の荒さかな
太白のつらぬく檜葉や猫の恋
松の葉のみな立ちのぼる朧かな
さへづりのかたまりやすき真風かな
人ごみに蝶の生るる彼岸かな
明くる日の事にこもれる椿かな
ふる蜂のいくつもとべる雪解かな
潮ぬれの藁垣つたふ蝶々かな
牛飛んでひびく堤や櫻月
竹の葉のさしちがひ居る涅槃かな
押入れに灯のさしこめり苗代時
白梅の日に照らふなき花弁ちる
手にもちて春扇とほき思ひかな
人間のことのはにとぶ蝶々かな
春の炉に水音ふれむばかりなる
水にふる雪より濃ゆき雛かな