和歌と俳句

永田耕衣

初夏のわれに飽かなき人あはれ

髪暑く下手な字を書くこころばへ

飯食うて昼うつくしき旱かな

まひまひの光輪にべにさし暮れぬ

蝶水にとまりて痩する夏入かな

竹落葉してふるき日のかかりけり

ほうたるを放ちし庭の明けにけり

野の風にあたりてゆれぬ夏の山

うつくしくかみなりひびく草葉かな

友来たるもつとも暑き夕べかな

山川に洗ひし髪のくもりけり

ぐるぐると廻る夕日や麦熟るる

父の忌にあやめの橋をわたりけり

蝙蝠の翅で歩くや芥子の宿

鳴る水にかたむけ摘める夏花かな

金堂へ道のびてゐるおばこかな

瞳とぢて蟇の子とぶや田植どき

衣服足りて妻子は蜥蜴虐げず

胸ちかく大暑の蝶の羽音あり

父祖哀し氷菓に染みし舌出せば

冷房を出て黒松にかこまれぬ

香薬師夏日は月となりにけり

夏風やは顎を引き給ひ

まのあたり白牡丹の獨り深し