初夏のわれに飽かなき人あはれ
髪暑く下手な字を書くこころばへ
飯食うて昼うつくしき旱かな
まひまひの光輪にべにさし暮れぬ
蝶水にとまりて痩する夏入かな
竹落葉してふるき日のかかりけり
ほうたるを放ちし庭の明けにけり
野の風にあたりてゆれぬ夏の山
うつくしくかみなりひびく草葉かな
友来たるもつとも暑き夕べかな
山川に洗ひし髪のくもりけり
ぐるぐると廻る夕日や麦熟るる
父の忌にあやめの橋をわたりけり
蝙蝠の翅で歩くや芥子の宿
鳴る水にかたむけ摘める夏花かな
金堂へ道のびてゐるおばこかな
瞳とぢて蟇の子とぶや田植どき
衣服足りて妻子は蜥蜴虐げず
胸ちかく大暑の蝶の羽音あり
父祖哀し氷菓に染みし舌出せば
冷房を出て黒松にかこまれぬ
香薬師夏日は月となりにけり
夏風や佛は顎を引き給ひ
まのあたり白牡丹の獨り深し