永田耕衣
金色の緑蔭の老いまさる在り
夏風や肩を出でゆく美少年
雨蛙めんどうくさき余生かな
青薄翁の食後の限り無き
彼ノ 蠅ノ矢羽ノ遥カナルヲ打ス
道道を飛び去り来てや夏衣
露白の脳髄の蠅びいきかな
充ち来たる蠅の頭脳や仮枕
晩年や重なるは鳴る蠅の珠
古今即今夏や橋の上を行く
花茨その肉の手を取り兼ねつ
今前を一寸思はんや茗荷汁
死ぬほどの愛に留まる若葉かな
瓜咲くや一つになつて村の音
長生や口の中まで青薄
夏鳥の過らむ顔を尋ね行く
笹百合の行く方へ行く老いにけり
睡蓮に胸のあたりを切らるるよ
物皆のやわらかに住む夏日哉
昼顔や水を湛えてさすらう人