和歌と俳句

永田耕衣

兜虫なかなかに死なざる故郷

五尺六尺なる身心に麦埃

天上に映りて麦を刈り尽す

田は水を湛へて池水寂しけれ

梅天をとべる途中の鴉かな

百千の合掌天の夕焼

半身を起す他郷の昼寝ざめ

雲の峯崩るる児孫たる我に

池の真つ盛りなる他郷かな

真つ白な蓮の花の群に下車

我老いしや何処もの花盛り

満開して西方につまり居る

夏蜜柑いづこも遠く思はるる

梅天を咳し横切る鴉かな

矢の如く粗末に飛んで梅雨の鴉

夕凪や使はねば水流れ過ぐ

熟れ際に倒れしの熟れにけり

枝を張る紫蘇のいづこを笑はんや

紫蘇が枝を張ると雖も鴉過ぐ

全力か否か崩るる雲の峯

枇杷甘し満水の池ところどころ

行雲が後ろ向く草の茂りかな

開くこと年年に迅くなる

崩れし雲の峯がバックで雲の峯

物として我を夕焼染めにけり