和歌と俳句

永田耕衣

緑蔭に無の樫の顔満つるなり

泥鰌浮いて鯰も居るというて沈む

緑樹下にこけるや老婆大地を吹く

渚寄りに海の掌濁れり夏蜜柑

いくたびか苺を殺す器かな

かの泥の意のままに枇杷滴るや

空蝉を拾い跡見る見損かな

晩年や空気で冷える夏の海

老斑を夏日晒しの童かな

餡こぼさぬ老婆の如し夏の海

鴉描いて足がふくれたよ月見草

葭切や我が行きて道みな残る

衰老は水のごと来る夏の海

蛾を以て扇としけり須磨の浦

晩年やまだ海のまま夏の海

顎老いてひとひらの杜若かな

蓮散華浮かべるに我慌てけり

蓮瓣の匙の空濃し白く濃し

自転して魂や分け入る夏蓬

あやめ見る男を女見難けれ

あやめ見る女を男見易けれ

父童母童とぶ紅蓮かな