和歌と俳句

永田耕衣

白蝋の己が灯に透く寒さかな

夜もすがら冱ててありけり父の筆

冱つる夜のかばねに獨り手をあつる

冱てながら父の机に坐り居る

凍鶴のひらかんとせし翼かな

凍鶴の真黒き羽毛を落しゐぬ

杉の香の時雨よぶなり金泥経

或る時はうすむらさきの障子かな

くれなゐにひびきもつれぬ除夜の鐘

文章を書きをればよくふる

石の上に踏みし枯藺や十二月

翔てば古き影あり水の上

面櫃の紐やはらかき時雨かな

時雨るるや隣の屋根のたのもしき

寒鴉歩けば動く景色かな

母は子を叱つてゐるがすすむ

ひらきたる厨子の香にふるかな

歳晩の雨のたまりの小草かな

行年のくろかみくろくねむるなり

梅の木にきしかば文章書く

土くれに時雨るるのみや一茶の忌

休みの日昼までを見てゐたり