和歌と俳句

永田耕衣

寒鯉を抱き余してぬれざる人

冬日落ちる頭の影の塵一握り

甍軽うて易の気の満つ風呂吹

冬海に杖を挿し置き婆来たる

闇老いて浮々と洗われけり

暗を見る小石嵌まれり冬の山

枯草や思わぬ人に摘まれ行く

凍て蝶や餅が通れば倒れて起つ

着物着てゆたかに接す冬の海

人近き餅のひかりや冬の海

晩年や雪採れば餅近づきぬ

冬海の陸を侵かさぬ着物かな

は皆にじり居るらし雪の暮

土に居る感なき昼や冬の蝶

西方も粉雪の眉毛充満す

空棺を供えたりけり水仙に

殺佛や枯野をわたる破戒佛

枯草を扇ぎいたりき旅老人

一休の体重かかる冬の蝶

水仙や乗雲の徒の散りじりに

泥鰌らも知りぬいて居る葱畑

生葱のうつる古池四五在らむ

食えば浮世石橋黄なるかな