和歌と俳句

永田耕衣

寒雁や人にもまれし旅半ば

うまし世の足袋の先まで来たりけり

の香の面に移る寂しさよ

霜解のとろとろと皆何処へ行く

夢の世にを作りて寂しさよ

凍蝶や西天に乳母車出て

冬の沼遠し遠しと猫行くや

亡ぶべく炭を掴める者あらむ

寒雀母死なしむること残る

匙にとり減らしし砂糖野は寒し

物書きて天の如くに冷えゐたり

涸池のぬれてゐるなり僧に告ぐ

肱曲げて家に在り蓮枯れにけり

六尺の寝床や蓮枯れにけり

冬を越しがたき老母に日は照るも

藁塚をつかみて人の如く押す

ふるさとは冬蜂すこし剣を出す

藁塚が藁塚隠す父亡きなり

母死ねば今着給へる冬着欲し

こまかにて冬着縞は何もせず

涸水の今日やや深し老母の死

母の死や皺の冬着の我が前に

藁塚が母亡き我に蹤いて来る

掛布団二枚の今後夢は捨てじ

綿蟲や夢は今後に日は西に