寒雁や人にもまれし旅半ば
うまし世の足袋の先まで来たりけり
葱の香の面に移る寂しさよ
霜解のとろとろと皆何処へ行く
夢の世に葱を作りて寂しさよ
凍蝶や西天に乳母車出て
冬の沼遠し遠しと猫行くや
亡ぶべく炭を掴める者あらむ
寒雀母死なしむること残る
匙にとり減らしし砂糖野は寒し
物書きて天の如くに冷えゐたり
涸池のぬれてゐるなり僧に告ぐ
肱曲げて家に在り蓮枯れにけり
六尺の寝床や蓮枯れにけり
冬を越しがたき老母に日は照るも
藁塚をつかみて人の如く押す
ふるさとは冬蜂すこし剣を出す
藁塚が藁塚隠す父亡きなり
母死ねば今着給へる冬着欲し
こまかにて冬着縞は何もせず
涸水の今日やや深し老母の死
母の死や皺の冬着の我が前に
藁塚が母亡き我に蹤いて来る
掛布団二枚の今後夢は捨てじ
綿蟲や夢は今後に日は西に