和歌と俳句

永田耕衣

強し人をなつかしみては失敗す

琴立てて飯炊きませり寒曇

練炭の最終の火や兄妹

抽出に佛光りし雪降るか

寒雲や呆と別れし衆の中

寒雲や別れし友も衆の中

老い朽ちてゆく母羨し玉霰

苔寒く母を忘れてゐたりけり

降る雪に老母の衾うごきけり

星ながら精しく掃きぬ冬の山

しばらくは雀まじへぬ冬の山

冬の雲一箇半箇となりにけり

寒雀老母は軒にしづもりぬ

母訪へば母と我が日や寒雀

玉の如相分れつつ水涸るる

冬の山禅師の墓の並びけり

指先を父祖まろびいづ冬日ざし

母訪ふや上を袖行く枯葎

まつくらに暮れてしづかや寒雀

鴨の声母の衣を貰ひけり

袖袂金剛寒といふべしや

鳴くや母の小鍋の蓋とれば

近松忌橋を渡つて来たりけり

母訪はむ足袋のこはぜのはめ難し

空也忌や膝冷ゆるとも蟹の味