和歌と俳句

三橋鷹女

初夢のなくて紅とくおよびかな

なゐ止んで繭玉いろを競ひけり

羽子板の裏絵さびしや竹に月

臥てきけばさびしきものよお万歳

舞ひ終へて金色さむし獅子頭

初刷を買ふあたらしき財布かな

繭玉のさくら色より明けにけり

真白さのつくばねうけよ初御空

初空の下なる蕪畠かな

初風呂を出しくれなゐの襦袢かな

初風呂の熱きに雪を掬ひけり

足袋底のうすき汚れや松の内

羽子板のつきくぼめたる裏絵かな

羽子板の裏絵消ぬべくなりにけり

松飾るすめらみくにの民なれば

常ならぬ世にありこれの松飾る

松飾り一億のこころ今ぞあらた

松飾しんしん青し兵に書く

焼け凍てて摘むべき草もあらざりき

初湯出て青年母の鏡台に

初空に父在りと思ふ一礼す

初髪を小さく母に白髪無く

路地裏もあはれ満月去年今年