和歌と俳句

三橋鷹女

すみれ摘むさみしき性を知られけり

蝶とべり飛べよとおもふ掌の菫

折りあげて一つは淋し紙雛

惜春やことば少なき夫とゐて

ふところの菜の花雛はしぼみけり

相反くひと等美し春の宵

明星のまたたき強し初蛙

沈丁やかたまりあひて受験人

紙雛さみしきかほを並べけり

連翹の鬱金に雪の二月かな

八方に雪解の音や火吹竹

沈丁を春暁の地より鉢へ

満ちくればすみれ色なり春の潮

春潮や水藻のごとき海女の髪

魚の眼に似たる花咲き夏近し

人の世のことばに倦みぬ春の浪

うろくづは月日と棲めり春の浪

春の夢みてゐて瞼ぬれにけり

びろうどの枕に寝たり春の夢

まひる吾が来たり田螺は鳴くものか

髪おほければ春愁の深きかな

春泥をいゆきて人を訪はざりき

春雨やくらげはものの淋しき味

沈丁に水そそぎをり憂鬱日

あすが来てゐるたんぽぽの花びらに