すみれ摘むさみしき性を知られけり
蝶とべり飛べよとおもふ掌の菫
折りあげて一つは淋し紙雛
惜春やことば少なき夫とゐて
ふところの菜の花雛はしぼみけり
相反くひと等美し春の宵
明星のまたたき強し初蛙
沈丁やかたまりあひて受験人
紙雛さみしきかほを並べけり
連翹の鬱金に雪の二月かな
八方に雪解の音や火吹竹
沈丁を春暁の地より鉢へ
満ちくればすみれ色なり春の潮
春潮や水藻のごとき海女の髪
魚の眼に似たる花咲き夏近し
人の世のことばに倦みぬ春の浪
うろくづは月日と棲めり春の浪
春の夢みてゐて瞼ぬれにけり
びろうどの枕に寝たり春の夢
まひる吾が来たり田螺は鳴くものか
髪おほければ春愁の深きかな
春泥をいゆきて人を訪はざりき
春雨やくらげはものの淋しき味
沈丁に水そそぎをり憂鬱日
あすが来てゐるたんぽぽの花びらに