和歌と俳句

三橋鷹女

恋猫にひらり三日月落ちかかる

哲学の田螺を投げて蒼い穹

蝶々の翳来て田螺老いそめぬ

磯浜にたつ陽炎は独り見ぬ

春眠のふためき覚めて何かある

ふららこの天より垂れて人あらず

チウリツプ或る日或る刻老い易く

蜂飛んで還暦夫に容赦なし

春鵙の瞳にも見ゆるや陽炎は

行く春の気まぐれ鵙を一瞥す

春苑にぼうたん見ざる口惜しや

あめつちの明暗ぐさと梅一枝

梅ひしとあの日葬りの日の如く

供花剪つて母よ夜明の紅梅に

蘆の芽のかたき決意に触れて来ぬ

雛の夜は雛に仕へて老いざりき

菫野に来て老い恥をさらしける

咲く地の一角を鬼門とし

来て夫句下手知れわたる

つばくらや我が家ならねば逐はるべく

陽炎や炎ゆると云へど野の果に

蝶の昼沢庵石が身に余る

チウリツプ驕慢無礼なり帰る

鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし

菜の花やこの身このまま老ゆるべく