恋猫にひらり三日月落ちかかる
哲学の田螺を投げて蒼い穹
蝶々の翳来て田螺老いそめぬ
磯浜にたつ陽炎は独り見ぬ
春眠のふためき覚めて何かある
ふららこの天より垂れて人あらず
チウリツプ或る日或る刻老い易く
蜂飛んで還暦夫に容赦なし
春鵙の瞳にも見ゆるや陽炎は
行く春の気まぐれ鵙を一瞥す
春苑にぼうたん見ざる口惜しや
あめつちの明暗ぐさと梅一枝
梅ひしとあの日葬りの日の如く
供花剪つて母よ夜明の紅梅に
蘆の芽のかたき決意に触れて来ぬ
雛の夜は雛に仕へて老いざりき
菫野に来て老い恥をさらしける
菫咲く地の一角を鬼門とし
燕来て夫句下手知れわたる
つばくらや我が家ならねば逐はるべく
陽炎や炎ゆると云へど野の果に
蝶の昼沢庵石が身に余る
チウリツプ驕慢無礼なり帰る
鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし
菜の花やこの身このまま老ゆるべく