和歌と俳句

菫 すみれ

一葉
あるじなき垣ねまもりて故郷の庭に咲きたる花菫かな

我庭に一本さきしすみれ哉 子規

子規
紫の一本やいづれむさし野の草むらがくれ菫咲く也

青石を取り巻く庭の菫かな 漱石

大和路や紀の路へつづく菫草 漱石

川幅の五尺に足らで菫かな 漱石

菫程な小さき人に生れたし 漱石

子規
日のささぬ おどろがもとの 花菫 薄紫に 咲きにけるかな

塊に菫さきたり鍬の上 虚子

子規
我庵に人集まりて歌詠めば鉢の菫に日は傾きぬ

田の畦の菫咲きけり初瀬道 碧梧桐

鉄幹
そや理想こや運命の別れ路に白きすみれをあはれと泣く身

見付けたる菫の花や夕明り 漱石

晶子
われ泣きて大き邸の黒門の側の菫をつみてかへりし

耕平
暖かき日影をとめて来りつる枯生ふのもとに菫咲くはや

耕平
春さらば菫を摘みておくらむと思ひしものを人はむなしき

石床に菫咲いたるあはれなり 万太郎

県庁の石垣のすみれ咲きいでにけり 山頭火

憲吉
洋盃なる菜種のはなに挿しそへし小すみれ草に心ときめきぬ

家人おぼえし仔犬の顔や壺すみれ かな女

笠置けば笠のほとりの菫かな 石鼎

吹かるるや塚の上なるつぼ菫 龍之介

千樫
二つ山三角標のもとに咲くすみれの花をまたたれか見む

すみれ摘むさみしき性を知られけり 鷹女

蝶とべり飛べよとおもふ掌の菫 鷹女

道も狭に耕馬の尻やすみれ花 普羅