和歌と俳句

土田耕平

道のべに立てる萱の穂ひとしきり動くと見えぬはた静まりぬ

目にとめて安房はるかなる燈臺のありか知られつ夕となれば

置火もてただに焼き食む栗の實の甘さは何と故里のもの

さす竹の君が賜ひし栗の實をむきつつもとな國おもひ涌く

故里の和田峠路を越えゆきて君が里べに栗拾はましを

君が家は片山つづき朝ごとにほたりほたりと栗落つる音

夜はいまだしらしら明けの小林に入りて拾はく落栗の實を

小林の下べに来ればさはにある落栗の實を籠もて拾ふ

一度さへ拾ひしあとにまた拾ふ栗の實いくら袂重たし

ねむごろに拾ひし栗を君食はず國遠く住む友にわかつも

山かげは今枯れ色のうつくしさ草根に残るいささ紅

冬の日は砂地の上にあたたかし蔓荊の實のしきてこぼるる

庭土の上に落ちつつたまりたる椿の花のくれなゐ褪せぬ

冬空の曇りは高しきはやかに雪をいただける伊豆の國山

たむの實をはじく小鳥の音ならしわが軒屋根の上にあたりて

春ははや木の芽ゆるむにさきだちて榛の木の花青みたるらし

春の夜の月はすがしく照りにけり木の芽ひらきてやや影に立つ

島山の裾ひくところ幾重にも榛若葉せり見るに床しさ

すでにして春来るらしさわやかに山の目白のさへづる聞けば

ゆくりなくわれ来にけらし山の上の道なだらにて椿落ちゐる

昼の間は若葉に障へし山櫻ゆふべ目に立つは寂しかりけり

をさな杉伸びしを見ればこの島にすみ遊ぶ身の久しくなりぬ

耳につくうつつの聲は朝雉子とてもかくても立ち別れなむ