和歌と俳句

土田耕平

かりそめの風邪長びきぬ冬の雨今日しとしとと降り出でにけり

枕べの障子にひびく波の音おもへば遠き旅の宿なり

しぐれ来る音まばらなり目をとぢてすなはち憶ふ故里の山

病みあとの弱りを持ちて家ごもる今日も日暮れて寂しかりけり

冬枯の山の木原をとよもしてただ吹きわたる風のさびしさ

この宿にかくて三度の年暮れぬ机の上の御ほとけの像

踊り場の若衆ら見にと去年は行きし今年は行かず家に寝て居り

 

踊り場の太鼓にぎはし晴衣の村少女どもきそひ行くらし

 

わが心何かしきりに哀しくて昼床のへに目をつぶり居り

 

寝てきけば笛や太鼓の音すなりわが父母の國し恋しも

 

めづらしく降れる雪かも日の照りの眩しき家に一日こもりつ

 

雪のあと暖かくして夜もすがら屋根の雫の落つる音すも

杉の穂の高きを見れば月澄める空をわたりてゆく風のあり

山の樹はいまだ芽ぐまずおし照れる今宵の月夜寒けかりけり

春いまだ浅しとおもふ山の原月照りわたりものの香もなし

み空ゆく月の光は澄みながら山の枯原かすみたるらし

にはたづみ溢るる見ればこの朝の雨暖かくなりにけるかも

みんなみの弘法濱にいくそ度潮鳴たちて春は来ぬらし

榛の木の花は咲けれど春いまだ寒しと思ふ土の日あたり

山の雲うごくを見れば春早くみんなみの風吹き来るらし

海原を吹き来る風は暖かしたちまちにして木の芽ひらくも

束の間に冬をすごして島原や榛の木立は芽ふきそろひつ