和歌と俳句

土田耕平

冬の日の低くし照れる焼原にやや砂けぶり吹き立ちにけり

久方の天のそぎへに真壁なす信濃の嶺ろは雪かづきたり

草の戸に時雨るる日なりききとして百舌鳥啼きすぐる聲の悲しさ

寂しさに耐へてもの焚く日ぐれ時板戸の外にしぐるる音す

仰ぎ見る空の色さへ澄みはてて木枯の風吹きにけるかも

凩の日にけに吹きて山肌は赭くさびしくなりにけるかも

冬深き日和となりぬ磯に来て一日したしむ青海の色

この岡の日向ぼこりに来慣れつつ冬暖かきことをうれしむ

咲きそめて幾日も経ぬに丹椿の花は木下に散りしきて見ゆ

暖かき日影をとめて来りつる枯生ふのもとに菫咲くはや

春さらば菫を摘みておくらむと思ひしものを人はむなしき

春の日はうなじに暑しとぼとぼに山原道を歩みつづくる

春雨の晴れゆく方の沖つ空はつかに光る富士の雪かも

木下道すでにかげりて蜩の聲あわただし独り歩むに

磯波の音もとだえし夜のしづみ洋燈の笠にとまるあり

ひやびやと夜ふけにけりわが宿の障子に居鳴くはたをりの聲

月きよき夜頃となりぬわが宿の芋畑に来て唄うたふ子ら

三原山裾の榛原うら枯れて鵯鳥のこゑを聞くべくなりぬ

一色に冬枯れにけりこの山の若葉せし日に来しを思へば