和歌と俳句

行あきや手をひろげたる栗のいが 芭蕉

古寺や栗をいけたる椽の下 鬼貫

生栗を握りつめたる山路哉 其角

毬栗や手に捧たる法の場 嵐雪

栗飯や根来法師の五器折敷 蕪村

栗備ふ恵心の作の弥陀仏 蕪村

毬栗に踏あやまちそ老の坂 召波

柴栗や馬のばりしてうつくしき 一茶

茹栗や胡坐巧者なちひさい子 一茶

栗焼てしづかに話す夕哉 子規

いがながら栗くれる人の誠哉 子規

くたびれは栗のはさまる草鞋かな 虚子

絵所を栗焼く人に尋ねけり 漱石

栗を焼く伊太利人や道の傍 漱石

栗はねて失せるを灰に求め得ず 漱石

頼家の昔もさぞや栗の味 漱石


さゝぐべき栗のこゝだも掻きあつめ吾はせしかど人ぞいまさぬ 


なにせむに今はひりはむ秋風に枝のみか栗ひたに落つれど

坂を下りて左右に藪あり栗落つる 碧梧桐

栗綴る妹見ればあかき行燈かな 碧梧桐

牧原の隅通ひ路や栗拾ひ 碧梧桐

小さなる栗なつかしき山家かな 鬼城

赤彦
谿の村にひびきて栗をおとす聲子どもの聲の満つ心地すれ

赤彦
谿の橋をりをり馬行き見ゆれども栗落すほかの物音もなし

赤彦
この谿の紅葉のなかに搖られて動く栗の木の見えにけるかも

山の日や落ちてしづけき栗の毬 石鼎

板の間うつせし音や栗一斗 石鼎

浅水にさらさら流れ栗一つ 泊雲

栗むくや夜行にて発つ夫淋し 久女

独り居て淋しく栗をむく日かな 久女

牧水
夕日さす 枯野が原の ひとつ路 わがいそぐ路に 散れる栗の実

牧水
音さやぐ おち葉が下に 散りてをる この栗の実の 色のよろしさ

牧水
柴栗の 柴の枯葉の なかばだに 如かぬちひさき 栗の味よさ

牧水
おのづから 干てから栗と なりてをる 野の落栗の 味のよろしさ

牧水
かりそめに ひとつ拾ひつ 二つ三つ ひろひやめられぬ 栗にしありけり

毬栗や二つ三つづゝ枝たわみ 花蓑

栗が落ちる音を児と聞いて居る夜 放哉

耕平
故里の和田峠路を越えゆきて君が里べに栗拾はましを

栗飯や寮生卓に目白押 草城

栗飯やほのぼのとして塩加減 草城

拾ひ来て畳に置きぬ丹波栗 普羅

栗拾ふ却て椎の木の下に 虚子