和歌と俳句

西山泊雲

断崖を削りて落ちし木の実かな

雨交り光り落ち来る木の実かな

コスモスの相搏つ影や壁の午後

真中の踏み込まれある落穂かな

秋雨や木戸の内外の潦

秋雨や色づきたけて野路の草

潦を掩ふ穂草や秋の雨

秋雨やおろしたてなる蓑と笠

秋雨やくろきの鳥居苔もなし

藪の穂にかゝらず入りぬ三日の月

地蔵会や堂後にすだくきりぎりす

地蔵会や鶏頭四五本残し掃く

落ちて広がる波や甕の水

夜稲扱くランプかすめて一葉かな

小芝かけてこぼれたる山路かな

芒皆刈られて池の円さかな

掘りあげし土管の土や鳳仙花

巨樹の根の光れる秋の雨夜かな

秋雨や汽車藪を出て嵯峨の駅

さみどりの森にみなぎる秋日

秋晴の嵯峨の藪裾通りけり

一本の薪にも凝りて道の

籾筵たゝむや木の葉選り捨てゝ

蟷螂や喰みこぼしたる蝶の翅

束の間の残照水に柳散る

コスモスや蝶も吹かれて風つよし

落穂干すや日に傾けて笊の底

月前や黍の孕み穂明かに

纜にしぶき煙や初嵐

ぽつぽつと黍の孕み穂初嵐

白壁に雨のまばらや初嵐

湛へし露落ちてはねたる葉一片

地蔵会や縄垣したる黍の径

足型も砂にほのかや鯊の水

散る柳波に揉まるゝ二三段

散る柳纜石にかくる程

曼珠沙華傾き合ひてうつろへり

曼珠沙華塚穴一つとり囲み

黄昏や夕月明り稲架くる