和歌と俳句

西山泊雲

秋風や芙蓉喰ひ居る青き虫

や山の井汲みに杉の道

門内の空の深さや菊日和

小走の犢に暮るゝ野分かな

藪耐へて家現はるゝ野分かな

山のさすや閂せゝこまし

糊盥萩こぼれぬとかごとかな

門内の虚空を煽る芭蕉かな

椎伐つて碑の苔かれし残暑

芭蕉葉の縁が焦げたる残暑かな

藪開墾きし根で風呂焚くや秋の暮

千仭の岩に蔦なし秋の風

野分晴穂黍押しわけて水貰ひ

窓のに頤突き出して聖かな

暁の露山荘の障子かな

打揚し巨木に人や秋の海

大帆より小帆二つ生みぬ秋の海

かざりたてお地蔵見えずなりにけり

抱き来て如何に備へん案山子

草の花の畦を破るや落し水

落し水ひつさげ出づる鍬かろし

霊山へ木深く逃げしかな

秋燕に紛れてとべる蜻蛉かな

無花果の岸へ着きたる渡舟かな

白菊に汚れし妹が櫛笥かな

芋の葉に玄翁の火や石碑彫る

葉を喰はれてや土中に黙し居る

洗ふ底を濁せし緋鯉かな

一本の黍に鈴なりの雀かな

新鍬の切れ味見よや土の秋

屋根越しに見る藪の穂や秋の雨

枝戦へど幹静かなる野分かな

蟷螂壁に白日濁る野分かな

草の中に小家漂ふ野分かな

地蔵会や漏斗を据ゑて賽銭箱

地蔵会や祠とりまき土産店

草の花仔牛とばせて面白し

親の股くゞる仔牛や草の花

栗の毬より野菊咲き出し山路かな

童子二人担へば重し芭蕉の葉

瀞に映る絶壁広し蔦の秋

草紅葉蝗も色に染まりけり

葉巻虫楚々とかくれぬ稲の露