和歌と俳句

杉田久女

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父立ちて子の起伏や柿の家

許されてむく嬉しさよ一つ

腹痛に醒めて人呼ぶ夜半の秋

秋晴や栗むきくれる兄と姉

独り居て淋しくをむく日かな

秋の夜やあまへ泣き居るどこかの子

老顔に秋の曇りや母来ます

帰り路を転び給ふな秋の暮

退院の足袋の白さよ秋袷

面痩せて束ね巻く髪秋袷

病み痩せて帯の重さよ秋袷

躾とる明日退院の秋袷

秋草に日日水かへて枕辺に

まどろむやささやく如き萩紫苑

毛虫の子茎を這ひゐしかな

火なき火鉢並ぶ夜寒の廊下かな

菊の日を浴びて耳透く病婦かな

病癒えて菊にある日を尊めり

母留守のにそと下りし病後かな

個性まげて生くる道わかずホ句の

妬心ほのと知れどなつかし白芙蓉

螺線まいて崖落つ時の一葉疾し

鶏頭大きく倒れ浸りぬ潦

櫛巻にかもじ乾ける菊の垣

秋山に映りて消えし花火かな

石の間に生えて小さし葉鶏頭

湖畔歩むや秋雨にほのと刈藻の香