杉田久女
菊の香のくらき仏に灯を献ず
月光にこだます鐘をつきにけり
かがみ祈る野菊つゆけし都府楼址
道ひろし野菊もつまず歩みけり
秋耕の老爺に子らは出で征ける
鳥渡る雲の笹べり金色に
雲間より降り注ぐ日は菊畠に
竜胆も鯨も掴むわが双手
信濃なる父のみ墓に草むしり
城山の桑の道照る墓参かな
ゆるやかにさそふ水あり茄子の馬
神前の雨洩りかしこ秋の宮
上宮は時じく霧ぞむら紅葉
橡の実や彦山も奥なる天狗茶屋
色づきし梢の柚より山の秋
靄淡し禰宜が掃きよる崖紅葉
花葛の谿より走る筧かな
幣たてて彦山踊月の出に
佇ちよれば湯けむりなびく紅葉かな
湧き上る湯玉の瑠璃や葛の雨
這ひかかる温泉けむり濃さや葛の花