和歌と俳句

杉田久女

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縫ふ肩をゆすりてすねる子暑さかな

月の輪をゆり去る船や夜半の夏

日盛の塗下駄ぬげば曇りかな

萱の中に花摺る百合や青嵐

一間より僧の鼾や青嵐

松の根の苔なめらかに清水吸ふ

衣更て帯上赤し厨事

みづみづとこの頃肥り絹袷

夏の帯広葉のひまに映り過ぐ

夏の帯翡翠にとめし鏡去る

後妻の姑の若さや藍ゆかた

洗ひ髪かはく間月の籘椅子

四季の句のことに水色うちはかな

照り降りにさして色なし古日傘

麻蚊帳に足うつくしく重ね病む

母の帯巻きつつ語る蚊帳の外

コレラ怖ぢ蚊帳吊りて喰ふ昼餉かな

蚊帳の中団扇しきりに動きけり

母と寝てかごときくなり蚊帳の月

蒼海の落日とどく蚊帳かな

蚊帳吊りて旅疲れなし雨後の月

縁側に夏座布団をすすめけり

打水に木蔭湿れる売店かな

水打つて石涼しさや瓜をもむ

玄海に連なる漁火や窓涼み