和歌と俳句

杉田久女

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屋根石にしめりて旭あり花棗

紫陽花に秋冷いたる信濃かな

濃霧晴れし玻璃に映れる四葩かな

山冷えに羽織重ねしゆかたかな

行水の提灯の輪うつれる柿葉うら

行水や肌に粟立つ黍の風

鏡借りて発つ髪捲くや明けやすき

草いきれ鉄材さびて積まれけり

草いきれ連山襞濃く刻みけり

北斗燗たり高原くらき草いきれ

草いきれ妖星さめず赤きかな

赤き月はげ山登る旱かな

灯れば蚊のくる花柿の葉かげより

花柿に簾高く捲いて部屋くらし

障子しめて雨音しげし柿の花

藻の花に自ら渡す水馴棹

水荘の蚊帳にとまりしかな

藻を刈ると舳に立ちて映りをり

藻刈竿水揚ぐる時たわみつつ

夏帯やはるばる葬に間に合わず

上陸やわが夏足袋のうすよごれ

夏羽織とり出すうれし旅鞄

替りする墨まだうすし青嵐

卓の百合あまり香つよし疲れたり

姫著莪の花に墨する朝かな