和歌と俳句

杉田久女

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夕凪や釣舟去れば涼み舟

灯せる遊船遠く現はれし

夏祭り髪を洗つて待ちにけり

風鈴に黍畠より夜風かな

孤り居に風鈴吊れば黍の風

帽子ぬぐや汗に撚れあふもつれ髪

金魚掬ふ行水の子の肩さめし

虫干やつなぎ合はせし紐の数

新茶汲むや終りの雫汲みわけて

枕つかみて起上りたる昼寝かな

夏痩のおとがひうすく洗ひ髪

夏痩の頬も色どらず束ね髪

子らたのし夏痩もせず海に山に

帰省子に糸瓜大きく垂れにけり

湖を泳ぎ上りし木蔭かな

を裁つや乱るる窓の黍

夕闇の中に蟇這ふけはひかな

つれづれのわれに蟇這ふ小庭かな

昼灯すみ山燈籠やひきがへる

生きの鰭をこがせし強火かな

笹づとをとくや生き鮎ま一文字

やけば猫梁を下りて来し

登り来ては杭をとび散る羽蟻かな

ゐもり釣る童の群にわれもゐて

玉虫や瑠璃翅乱れて畳とぶ