和歌と俳句

帰省

帰省して書斎なつかしむ澁団扇 虚子

蛍とぶ門が嬉しき帰省かな 放哉

初袷なくて寂しき帰省かな 龍之介

馬鈴薯の花もうれしき帰省かな 草城

帰省子を迎へて母や落着かぬ 草城

帰省子やねびまさりたる話振 草城

帰省すや母栽培の茄子の味 草城

帰省子病んでいよいよやさし父と母 草城

月見草萎れし門に帰省せり 普羅

帰省子に父の医学の古びたり 播水

帰省すや雷雨のあとの町さびれ 播水

帰省するふるさとみちの夜市かな 蛇笏

うちつけに夜の戸叩く帰省かな 淡路女

首なげて帰省子弱る日中かな 蛇笏

帰省子に夜々に月あり川堤 秋櫻子

帰省子に葉がくれ茄子の濃紫 秋櫻子

なつかしや帰省の馬車に山の蝶 秋櫻子

桑の葉の照るに堪へゆく帰省かな 秋櫻子

やうやくに倦みし帰省や青葡萄 秋櫻子

黍を吹く風に帰省の夜々の夢 秋櫻子

さきだてる鵞鳥踏まじと帰省かな 不器男

帰省子や夜の東京を心にて 石鼎

帰省子の行李おろせし駅夫かな 石鼎

帰省子にその夜の故園花幽き 蛇笏

あらくさの茂れるなかへ帰省かな 草城

帰省子と書物往来ありにけり 槐太

茗荷掘るゆふべの母に帰省しぬ 麦南

帰省子に月夜の富嶽雲おびず 麦南

踏みならす帰省の靴はハイヒイル 久女

寮の娘や帰省近づくペン便り 久女

帰省子の琴のしらべをきく夜かな 久女

帰省子やわがぬぎ衣たたみ居る 久女

いとし子や帰省の肩に絵具函 久女

果樹の幹苔厚かりし帰省かな 草田男

帰省子に年々ちさき母のあり 鳳作

つれだてる老母の小さき帰省かな 鳳作

木村屋の餡パンを買ひ帰省かな 万太郎

水打つて暮れゐる街に帰省かな 素十

帰省子の気がやさしくて野菜とる 蛇笏

帰省子のせて午前十時の馬戻る 草田男

釣橋やこたび帰省の子に躍る 青畝