和歌と俳句

扇風機

夕闇にめづる怪体や煽風機 龍之介

牧水
停車場の大扇風機 向日葵のごとく廻れり 黙せる群衆に

灯のいろのねむき今宵や煽風機 万太郎

何もなき袂吹かれぬ扇風機 草城

扇風器ややに止れば無表情 草城

静けさや音いきり立つ扇風器 草城

扇風器の風に触れゐる金蓮花 草城

扇風器に立ちはだかりて涼みけり 草城

扇風機むなしき卓を吹き払ふ 草城

扇風器大き翼をやすめたり 誓子

よき人の袂を吹いて扇風機 青邨

扇風機まわりつづけてさいはてに 青邨

扇風機真白し船の客となる 誓子

扇風機つばさが消えて風となる 草城

扇風機まはれる茶の間ぬけにけり 不器男

扇風機合図の見えて動きけり 汀女

扇風機まはり熱風吹き起る 虚子

扇風機吹き瓶の花撩乱す 虚子

扇風器をのれぞ恃む人の中 友二

待ち入る目に人も待つあり扇風器 友二

扇風機あり休めあり吾を待たす 槐太

癖のある扇風機なり見てをりぬ 杞陽

扇風機人は屈みて球を突く 杞陽

扇風機のまはる翳りの部屋ぢゆうに 

扇風機の薄透く大き円真上 

扇風機の筒なす風の中にあり 

扇風機に風触はる音をりをりに 

扇風機の音正しくそれてゆきねむし 

扇風機に投げ出せる腕しめり来ぬ 

扇風機翅見えそめつつ影を得つ 

扇風機止り醜き機械となれり 

別れ来て対ふ声なき扇風器 波郷

卓布吹きやがてわれ吹き扇風機 立子

早く来て待つ間久しや扇風機 立子

アンカレヂ毛皮売場の扇風機 汀女

一力の古扇風器風起す 誓子

堆書裡に古扇風機吾としづむ 爽雨

扇風機何も云はずに向けて去る 汀女