若山牧水

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我が赤児 ひた泣きに泣く 地もそらも しら雲となり 光るくもり日

油なす ものうさつらさ ほてほてと からだほてれど 空を見てをり

梅雨雲の 空に渦まき 光る日は こころ石とも 冷えてあれかし

夏深し いよいよ痩せて わが好む つらにしわれの 近づけよかし

折しもあれ 借金とりが 門をうつ くもり日の家の 海の如きに

朝まだき 夏の市街の かたすみの 酒場に酔ひをれば 電車すぎゆく

夜ふけし 夏の銀座の しきいしの つめたきを踏み よろぼひあゆむ

東京の 七つ八つなる 小娘の 眼の小悧巧さ われとあそばず

わが窓の 四方にからむ 電線は 蜘蛛のやぶれ巣 けふも曇れり

わが頸の みじかきことを 悲しみぬ おほいにわれを ののしらむとし

廃駅に ならむといへる 新橋の 古停車場ぼ 夏の群衆

くもり日に 啼きやまぬ蝉と 我が心 語らふ如く おとろへてをり

わが立つや 夏の市街の つちほこり 麺麭の匂ひに 似て渦をまく

あはれ身は うしほ腐れる 海ぞこに むぐれる魚か 汗湧きやまず

燻りけぶれる 昼の日ざしに かきつぐみ 瓜をたづねて 夏の街いそぐ

手にとれば たなごころより 熱かりき 昼の市街の みせさきの瓜

しとしとに 汗は湧けども うちつけに 暑しともなく 萎え居るなり

食めば そことしもなく 汗滲み 昼のやぶ蚊の 身をなきめぐる

ものうしや あまりに瓜を はみたれば 身は瓜に似て 汗ばみにけり

和歌と俳句