なすべきを なさざる故に この如く さびしきものと なりしやわれは
消すまじと 心あつめて 埋火に むかへる夜半を 雪凍るらむ
ペン一つ まへにあるさへ ひしひしと 身にくひ入りて さびしき夜なり
工場街 折しも西日 真赤きに 煙地に垂れ わがひとりゆく
工場街 とほく歩める 少女子の ながき羽織に 夕日ゆらめけり
春来ぬと こころそぞろに ときめくを かなしみて野に いでて来しかな
この歩み 止めなばわれの 寂蓼の 裂けて真赤き 血や流るらむ
われと身を 噛むが如くに ひしひしと 春のさびしき 土ふみ歩む
青草の 岡にいであひ こらへかね 泣ける涙の あとのさびしさ
春の雲 照りつつ四方を とざせる日 高きに立てば わが世悲しも
鶯の 啼きてゐにけり 久しくも 忘れゐし鳥 なきてゐにけり
ふと見れば 路傍の軒に ほこりあび 篭にし鳥は 啼けるなりけり
つかれはて すわれる岡の もとをすぎ 春あさき日の 小川流るる
おほぞらに 垂れつつ春の 雲光り ここの林に 烏むれ騒ぐ