和歌と俳句

若山牧水

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さやさやに その音ながれつ 窓ごしに 見上ぐれば青葉 滝とそよげり

やはらけき 欅のわか葉 さざなみなし 流れて窓に そよぎたるかも

置かれたる 酒杯のさけにも こまごまと 静けき青葉 うつりたるかな

ひとしきり 風に吹かれて しなえたる あを葉の蔭の ひるすぎの窓

青臭き 香さへ漏れ来て 曇り日の 窓辺のわか葉 風立つらしも

或時は 雨かとも聞ゆ 窓押せば かはることなき 欅のひかり

さやさやに さやぐ青葉の 枝見つつ 沖の白浪 おもひゐにけり

欅青葉 さやげる見れば 額あげて われも大きく 眸張るべかり

日ごと日ごと 黒みかたまる 窓の前の 欅のわか葉 見つつ惜めり

通り雨 葉かげにそそぎ 朝風の さやぎもつるる 窓辺より見ゆ

あたりみな 鏡のごとき 明るさに 青葉はいまし 揺れそめにけり

青嵐 立たむとならし 楢の葉の きらりきらりと 朝日に光る

いつしんに 事を為さむと おもひ立つ そのたまゆらは 楽しきものを

ともすれば 外れがちなる こころの破目 けふもはづれて 一日暮るる

疲れはてて 帰り来れば 珍しき もの見るごとく つどふ妻子ら

午前四時 五時まだ過ぎず しののめの 靄降れる間の われのたのしさ

けだるさを 叱り叱りて 起き出づる しののめの空に 靄深く降れり

あはれはれ 雨かも降ると 起き出でて 見ればけうとき 青葉のひかり

とかくして 朝七時すぎ 八時九時 過ぎゆくなべに 世はひかりなり

竹煮草 あをじろき葉の 広き葉の つゆをさけつつ 小蟻あそべり