若山牧水

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朝空に 黄雲たなびき 蜩の いそぎて鳴けば 夏日かなしも

朝霧は 空にのぼりて たなびきつ 真青き峡間 ひとりこそ行け

少女子が ねくたれ帯か 朝雲の ほそほそとして 峰にかかれり

蜩なき 杜鵑なき 夕山の 木がくれ行けば そよぐ葉もなし

わがこころ 青みゆくかも 夕山の 木の間ひぐらし 声断たなくに

岨路の きはまりぬれば 赤ら松 峰越しの風に うちなびきつつ

空高み 月のほとりの しら鷺の うき雲の影 いまだ散らなき

雨待てる 信濃の国の 四方の峰 ゆふべゆふべを 黄雲たなびく

あはれこは 風の渦かも つばくらめ 狭間の空に まひつどひたる

有明の 月かげ白み ゆくなべに 数まさりつつ とぶ山燕

尾長鳥 その尾はながく 羽根ちさく 真白く昼を とべるなりけり

尾長鳥 石磨るごとき 音には啼き 山風強み とびあへぬかも

朝雲ぞ けむりには似る この朝け あわただしくも 啼くほととぎす

ほととぎす しきりに啼きて 空青し こころ冷えたる 真昼なるかな

老松の 風にまぎれず 啼く鷹の 声かなしけれ 風白き峰に

なか空に まひすましつつ 喘く聞けば 天雲も光り 輝くとこそ

今日はしも 峰越しの風の 強ければ うす雲も鷹も 光り流るる

雲がくれ ひひろと啼きて 行きし鳥 狭間の空は 光りたるかな

和歌と俳句