和歌と俳句

若山牧水

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大野辺の 秋の日ざしを やや強み 寄れる木かげは 白樫にして

くろぐろと 汽車こそ走れ 秋の日の その長き汽車の あとに立つ風

野ずゑゆく 汽車のかげのみ はるかにて 秋の日いまだ 暮れずあるかな

秋といひ われから声に 驚きて 窓辺にとほき 市街見やるかな

つら並めつ ものを覗ひ 蛙群れをり 夏も終りの 沼のくろつち

ひとしきり 蛙さわぎて 静まれば こほろぎはつちに なきいでにけり

夏ぞらの くゆりさびしみ 見つつあれば 雲か風かも 湧きそめにけり

さはやかに 高くも雲の かよふかな 窓の木梢に 寄る風もなく

木犀の 匂ふべき日と なりにけり をちこち友の 住みわびし世に

おほそらに 照りつつ渡る うき雲も 身にしむとさへ さびしきものを

さびしさは あけはなちたる 秋の窓に ひしと流れ来 とほき常磐樹

窓の辺の木ぬれのあを葉かき垂れてほこりぞ見ゆる夏の夜の月

眼ざむるやさやかにそれとわきがたきゆめに疲れし夏のしののめ

貧しさに 怒れる妻を 見るに耐へかね 出づれば街は 春曇せり

われと身の さびしきときに 眺めやる 春の銀座の 大通りかな

みづからの いのちともなき あだし身に 夏の青き葉 きらめき光る

水無月の 朝ぞら晴れて そよ風ふき ゆらぐ木の葉に 秋かと驚く

春の雲 空かきうづめ 光れる日 飛行機ひとつ かけりゆく見ゆ

プロペラの ひびきにまじり 聞え居り 春の真昼の 吾子が泣きごゑ

いとかすけく 春の青樹の こずゑ揺れ 飛行機は雲に 消えゆきにけり