若山牧水

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わが屋根に 俄かに降れる 夜の雨の 音のたぬしも 寝ざめてをれば

雨の後の けふのうらら日 陽炎の まひのぼる地に 大き杉立てり

春の夜の 屋根のしめりの 身にかよふ 静けき朝を 風吹き立ちぬ

春寒き みそらの星の しめらへる この東明を 風吹き立ちぬ

東に うかべる雲の くれなゐの 端みだれたり 東風の寒きに

稀にゐて ひとりし見れば わが宿の 庭の杉垣 春めきにけり

眼覚むれば 雨はやみゐて 春の夜の やや寒けきに 梟聞ゆ

梟の 啼き啼く聞けば 雨過ぎし こよひの月夜 さやけかるらし

まどかなる 月こそ残れ 春さむき あかつきはやく わが出で来れば

暁の 春の月夜の 寒けきに 出でてあゆめば 蛙なくなり

風吹けば おほになびかひ うすべにに つぼみわたれり さくらの花は

いついつと 待てればいつか 木がくれに 咲き出でし桜 しづかなるかも

とりどりに 木木の芽ぐめる 背戸の森の 木の間の桜 散り過ぎにけり

うちなびき 雲こそわたれ 初夏の 大野の空は 曇りながらに

歌詠むと つどへるおほみ 部屋二間 抜けば寒けき 葉ざくらの風

あけはなつ 窓に茂れる 葉ざくらの そよぐともせで 夜風さむけし

曇りがちの 夏のはじめの こよひまた 曇りてさむき 葉ざくらの色

和歌と俳句