和歌と俳句

若山牧水

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わが汽車の ゆけばまひたつ 一二羽の 白鷺ゐたり 広き冬田に

枯草の みだれし畔の かたかげに あらはにぞ居る 白鷺一羽

ものあさる ふりとも見えず 薄氷の とざせる小田に 立てる白鷺

寒鮒の にがきはらわた 噛みしめて 昼酌む酒の 座に日は射せり

藪かげの みぎはの笹の 冬枯の うごくを見れば 鳥の居るらし

笹むらを そよがせながら ものあさる 鶫をりをり しのび音に啼く

うす雲の 空にのぼれる 朝の日の 杉のこずゑの 雪降りやまず

ところどころ 濃き藍見ゆる 朝ぞらの 雲ふかくして 杉の雪散る

軒かこむ 杉の小枝ゆ 落ちくだる 雪の繁きに こころ澄みたり

散り散らぬ 杉のこずゑの しら雪の あらはに見えて 鵯啼きあそぶ

枝わたる 鵯鳥の影 葉がくれに 見えゐて杉の 雪散りやまず

大杉の 雪のなだれの しげくして 根がたの竹は 伏しみだれたり

片蔭の 藁屋のけぶり ほそぼそと なびける藪の 雪は散りつつ

水鳥の あやふくあゆむ 藪かげに 止みたる雪は うすく光れり

ほのぼのと 雪のおもてに 照りまよふ うすら青みの ありて日かげる

下草の うすら赤みの 竹の葉の やうやく乾き 杉の雪散る

おほかたの 梢のゆきは 散りはてて 浅きはやしの 杉の木若し

うら寒き 春の日ざしは はだら雪 消のこる杉に さしこもりたり

ひえびえと 庭の雪より 湧く寒さ この縁側に 日はさしながら

庭の雪 かたく氷りて 寒けきに ひとり篭れば 部屋の明るさ

庭隈の 雪はこほりて 塵を帯び 咲きがての梅 くれなゐ深し