とりどりの 畑の畔に うゑられて みのれる黍は 遠く続けり
黍はみな 畔に植ゑられ 黍の根に 韮のほそき葉 青み続けり
ひしひしと 植ゑつめられし 蝦夷菊の 花ところどころ 咲きほころべり
くれなゐは おほく摘まれつ えぞ菊の 畑にさびしき むらさきの花
すがれ葉や すがれし蔓の うへにまろび あらはなるかも 瓢の子等は
見てあれば ひとつひとつが 笑ひいづる ひさごの数は かずかぎりなし
大ひさご 小ひさご地に まろびあひて ねむりころがる 秋のひなたに
つづきあふ 畑にとりどり 日のさして いまぞ静けき 秋みのりどき
はすかひに わが眼のまへを とびゆきし 雀かすかに 啼きて飛びたり
はらはらと 陸稲畑を まひたちし 雀はくだる 青葱畑に
畔の草を わけつつあさる 雀子の そのなきごゑも こほろぎも聞ゆ
かき寄せて 大根のもとに つち添ふる 嫗が笠は 破れたり見ゆ
折り持てば わがたなごころ あたたかき 重みをおぼゆ 黍の垂穂を
秋の日の 畔をゆきつつ 親しさや はたけの土の 濡れし乾きし
酒やめて かはりになにか たのしめと いふ医者がつらに 鼻あぐらかけり
宣りたまふ 御言かしこし さもあれと やめむとはおもへ 酒やめがたし
酒やめむ それはともあれ ながき日の ゆふぐれごろに ならば何とせむ
朝酒はやめむ 昼ざけせんもなし ゆふがたばかり 少し飲ましめ
喰ひすぎて 腹出してをるは 飲みすぎて 跳ねて踊るに 比すべくもなし
飲みすぎは 酔ひてくだまく よしゑやし このくひすぎは 屁をたれてねむる
酒なしに 喰ふべくもあらぬ ものとのみ おもへりし鯛を 飯のさいに喰ふ
おろか者に たのしみ乏し とぼしかる それのひとつを 取り落したれ
うまきもの こころにならべ それこれと くらべ廻せど 酒にしかめや
人の世に たのしみ多し 然れども 酒なしにして なにのたのしみ
おそらくは 再びわれに かへりこぬ そのたのしみと 思へば泣かるる