ただひとり 淵にのぞめる 心地しつ 椅子に埋れて 酒をまつなり
夕かけて 風吹きいでぬ 食卓の 玻璃の冷酒の 上のダーリア
夜の机 われのにほひを 嗅ぐごとく 黒きダリアを 手にとりてみる
荒みたる 心見つめて 飲みて居ぬ 紅きダリアも 眼にうとましく
ダリアよ 灯消さば 汝が色も 濃きあぶらなし 闇となるらむ
わくら葉の 青きが庭に 散りてあり 朝はひとみの わびしいかなや
向日葵の おほいなる花の そちこちの 弁ぞ朽ちゆく 魂のごとくに
青き幹 かの枝を切れ かの葉を裂け 真はだかにして 冬に入らしめ
時として 市街のいらかも ゆく人も 黄なる落葉と 見ゆることあり
えんとつに 煙わきならび 市街みな 磧の如し 心のごとし
こよひまた 眠られぬ身に 凍みひびく 冬の夜雨は 神のごとしも
夜の市街も わが身もしとど 凍みとほり 氷れとごとく 時雨ふるなり
照りくもり 空のをちこち ゆきちがふ 冬雲の群を 窓にいとへり
冬空の あまり乾けば 市人も ひそかに雪を まつにあらずや
雪積みて 今宵はいとど しづけきに 夜半にねざめよ 人を思はむ
片幹に こほれる雪の けぶりつつ 入日の中に 立てり欅は
われと身の 肌のぬくみを なつかしみ 梢より散る 雪ながめ居り
枯木立 木木より雪の 散りやまず 行きずりの身に 西日赤しも
おのづから 悲しき声に いでてなく 雪の日の鳥 西日にきこゆ
雪ふかき 落葉の木の間 入日さし あまりてここの 窓を染むるも