和歌と俳句

一葉
世の中を木がくれてすむ宿なれど猶かしましき蝉の声かな

着物干す上は蝉鳴く一の谷 子規

庭の木にらんぷとどいて夜の蝉 子規

人病むやひたと来て鳴く壁の蝉 虚子

一筋の夕日に蝉の飛んで行 子規

松風の絶へ間を蝉のしぐれかな 漱石


那須の野の萱原過ぎてたどりゆく山の檜の木に蝉のなくかも

蝉なくや草の中なる力石 放哉

憲吉
山中のしづけき町に蝉の音の四方よそそぎてくれ入りにけり

崖撫づる水ゆくとなき蝉時雨 山頭火

朝日影横這ふ朴や深山蝉 石鼎

露の幹静かに蝉の歩き居り 虚子

蝉時雨山坊巒気とざしたり 亜浪

山蝉や霧降る樹々の秋に似て 亜浪

神甕酒満てり蝉しぐれする川社 蛇笏

けふの日も事なかりけり蝉暑し 山頭火

蝉ねらふ児の顔に日影ひとすぢ 山頭火

赤彦
一つ蝉鳴き止みてとほき蝉きこゆ山門そとの赤松林

門外の潭や幾樹の蝉時雨 龍之介

赤彦
坐りゐて耳にきこゆる蝉のこゑ命もつもののなどか短き

赤彦
唐寺の古りにし庭に蝉なけり心ひそけく我は来にけり

啼き渡る蝉一声や薄月夜 龍之介

夜の蝉の起ししかろきしじまかな 汀女

赤彦
赤松のうへなる雲の峰にひびきて鳴けり蝉のもろ声

牧水
蝉なくや 西ゆひがしゆ 庭の木ゆ 或は軒端の 廂ゆ聞ゆ

庭の空に蝉一声や月明り 龍之介

蝉の脊の紺青にして樫の風 石鼎

蝉鳴くや暑く掴めるポンプの柄 みどり女

蚊帳に来た蝉の裾のべに一鳴きす 碧梧桐

茂吉
蝉のこゑ波動をなして鳴きつぐを聴けども飽かず比叡の山

蝉逃げし方に森ありくろぐろと 禅寺洞

二三日再た沸きかへし油蝉 青畝