和歌と俳句

山を出る瀬の蕩搖と蝉しぐれ 蛇笏

蝉鳴けり泉湧くより静かにて 秋櫻子

港湾や青森の蝉のけぞり鳴く 三鬼

蝉とび出す緑の一目千本へ 静塔

蝉しぐれもろ手を揚げて措きどなし 蛇笏

海距て脚下に抉る蝉の谷 風生

民民と良寛の詩の蝉鳴けり 誓子

姉妹同じ声音蝉鳴く中に会ひ 多佳子

蝉声に高音加はる死は遠し 多佳子

蝉時雨木彫佛の縦の木肌 林火

崖に消ゆ山道ばかり岬蝉 不死男

蝉の目の岬育ちの寂かな目 不死男

寝る蛸の水族館に蝉の声 不死男

癪に効く湯へ声おとす高嶺蝉 不死男

蝉の日や研れて匂ふ鎌の反り 不死男

神童の持つ指白め鳴く蝉よ 不死男

瀬に沁みて奈良までとどく蝉のこゑ 誓子

半身を草に石佛蝉の空 林火

蝉声を冠着越えの汽笛消す 林火

蝉持つ子笑顔をしまひ忘れたり 楸邨

鳴き交す蝉は見えねど幹ふたつ 秋櫻子

蝉うまるその荘厳を雨の闇 悌二郎

闇に耐へ羽化せし蝉ぞ目の潤み 悌二郎

まだ飛べぬ蝉囚はれ脚もがく 悌二郎

絶命の叫びいく度闇の蝉 悌二郎

鳴きやみし蝉より茜ひきにけり 双魚

生や死や有や無や蝉が充満す 楸邨

甘え猫鳴く蝉荒く喰ひたるに