地に近く咲きて椿の花おちず
春暁のうすむらさきに枝の禽
津軽よりうす霧曳きて林檎園
風の吹く弓張月に春祭
芽木林月の緑光ただよへり
霧の夜は門に山嶽ねしづみて
雲曳きて峯越しの櫻ちるはなし
いとどしく星河うすれて淡路女忌
秋たつときけばきかるる山の音
雙燕のもつれたかみて槻の風
霧だちて金色しづむ樺の蝶
夏風に切疵痛む青畳
萬緑になじむ風鈴昼も夜も
栴檀の花うすいろに郷薄暑
雙燕の啼き交ふあふち花ざかり
老鶯の啼くねに鎮む山泉
郭公啼く青一色の深山晴れ
山を出る瀬の蕩搖と蝉しぐれ
濁流に日影かするる青すすき
庭樹の閒ことなく鎮み秋のたつ
無花果の樹蔭の童女秋暑の日
花ちりて秋暑に耐へぬ山の百合
黄落のつづくかぎりの街景色
雨あしのつばらに見えて曼珠沙華
秋の風死して世を視る細眼なほ