和歌と俳句

飯田蛇笏

椿花集

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地に近く咲きて椿の花おちず

春暁のうすむらさきに枝の禽

津軽よりうす霧曳きて林檎園

風の吹く弓張月に春祭

芽木林月の緑光ただよへり

霧の夜は門に山嶽ねしづみて

雲曳きて峯越しのちるはなし

いとどしく星河うすれて淡路女忌

秋たつときけばきかるる山の音

のもつれたかみて槻の風

霧だちて金色しづむ樺の蝶

夏風に切疵痛む青畳

萬緑になじむ風鈴昼も夜も

栴檀の花うすいろに郷薄暑

雙燕の啼き交ふあふち花ざかり

老鶯の啼くねに鎮む山泉

郭公啼く青一色の深山晴れ

山を出る瀬の蕩搖と蝉しぐれ

濁流に日影かするる青すすき

庭樹の閒ことなく鎮み秋のたつ

無花果の樹蔭の童女秋暑の日

花ちりて秋暑に耐へぬ山の百合

黄落のつづくかぎりの街景色

雨あしのつばらに見えて曼珠沙華

秋の風死して世を視る細眼なほ