和歌と俳句

篠田悌二郎

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雪渓の上しら糸は雪解瀧

雪解瀧梅雨一旬に変へし位置

雪渓は汚るとかざす紅卯木

籐椅子に懐ひの遠き夕河鹿

鳴く河鹿日の暮いつの間に闇へ

梅雨黎明雪痕照らふ岩手山

夏山の奥ひとつ家に籠目白

茂山に目立ちて繊き死木立つ

硫黄噴く岩をさばしり蟻荒し

荒凉に堪へず戻れば燕の巣

硫気噴く熔岩の脆さにたぬき蘭

混浴とてぢぢばばばかり岩燕

山欠けて赭し梅雨晴の山毛欅林

噴気孔吊鐘つつぢ花揺れて

紅花苔ルビーのかけら岩に撒く

玉虫拾ふ月との通話達せし日

うまるその荘厳を雨の闇

闇に耐へ羽化せし蝉ぞ目の潤み

まだ飛べぬ蝉囚はれ脚もがく

絶命の叫びいく度闇の蝉

高空に咲く合歓碧き蝶誘ふ

群離れ咲く睡蓮にかしづく葉

あさざの葉小さく円きを雑魚つつく

噴水はどうしても薔薇凌げざり

彩尽し咲き競へども土用薔薇