和歌と俳句

篠田悌二郎

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若葉揺れ詩箋水指の罫うごく

ほととぎす牧渓遠寺晩鐘図

枇杷青し細川井戸の彩かたち

新樹光うけて香炉の朝の冨士

初夏や責紐釜の肩の張り

新緑や硝子戸掻きて犬の貌

湧く水の音かき消すはの雨

雨にうつ向くは遅咲き黄の牡丹

芍薬の白きも雨に伏さんとす

えごの花めぐりて園のもとの径

鷹消えて凛とうすうす梅雨の冨士

冨士を前いろよき新茶おきな飴

老鶯の朗々絶えず暮れず

茫々もとより淡き梅雨の冨士

郭公や仮寝の顔に手巾蔽ひ

脱衣室六月巨き冨士を窓

網戸に蛾とめて朝冨士雲脱がず

紫陽花や二階の不和は大事なき

熟るる枇杷一年永く短かかり

墓域浄く一蕾のこす遅つつじ

梅雨桔梗ささげみ墓に触れ申す

だぼ鯊とコップに活かす藪手毬

泰山木咲きくだり来て窓の前

紫陽花のいまの彩にも日数経ぬ