和歌と俳句

富士五湖

茂吉
あさまだき烏帽子ケ岳にのぼりたち五つの湖をふりさけにけり

五湖のみちゆくゆく餘花の曇りけり 蛇笏

春雁をとどむるとしも五湖の雨 蛇笏

河口湖

ヒトデ似し湖広き処夕立雲 碧梧桐

富士仰ぐわが首折れよ船涼し 蛇笏

白扇に山水くらしほととぎす 蛇笏

晶子
いみじかる雲に向ひて船出する船津と覚ゆ川口の湖

かげ富士は波がくれなる燈籠かな 蛇笏

秋晴や鵜の島ほとり湖の波 淡路女

花卯木水模糊として舟ゆかず 蛇笏

白秋
鵜の島は紅葉しにける岩はなに兎出てゐてぬくとき秋や

はつ機の産屋ヶ岬にひびくなり 蛇笏

流燈に大富士かげを涵しけり 蛇笏

鵜の嶋ややまつばき咲く雨の中 蛇笏

火山湖のみどりにあそぶ初つばめ 蛇笏

雲下りて湖の嶋山きぎす啼く 蛇笏

うすかすむ嶺々の全貌湖を前 蛇笏

日象と雪山ふかく水かがみ 蛇笏

あら浪に鴨翔けもして春の雪 蛇笏

花ふぶきして日みなぎる湖の波 蛇笏

西湖

晶子
うぐひすや富士の西湖の青くして百歳の人わが船を漕ぐ

下山して西湖の舟に富士道者 蛇笏

白秋
西湖の 溶岩壁を 立つ鳥の 羽ばたきを聴けば 間隔正し

白秋
み冬づく 西湖の鱸 よく冷えて 釣られたりけり 徹る気先に

白秋
西湖は しづかなる湖 瓦焼く 煙のぼりゐて 秋の色あり

雲に啼き西湖にうつるひばりかな 蛇笏

精進湖

富士晴れぬ桑つみ乙女舟で来しか 碧梧桐

晶子
山高きところなれども地の底に湖畔は似たり精進の夕

茂吉
しづまりかへりし秋の山のまに精進の湖はこもりつつあり

白秋
青木繁む 富士の裾原 風乱り 行きはしる雲の 絶ゆる間もなし

白秋
精進湖 雲あし赤く 日暮なり 写真とらすと 家族馬竝む

蟲たえて奥地は薔薇に陽の昇る 蛇笏

こぼれ水冬の入日の方へ赤し 林火

結氷湖懐中燈の輪がすすむ 林火

観楓の朝の暖房館を出づ 爽雨