和歌と俳句

高橋淡路女

貼りかへし障子に今日は後の月

秋晴や鵜の島ほとりの波

秋がすみして日の高し甲斐盆地

観月や高張立てて百花園

後の月雲限りなく湧く夜かな

一日の旅をたのしむ秋袷

好み縫ふ房は水いろ菊枕

うつり香のうなじにほのと菊枕

かしづきの官女も出さず菊雛

さらさらと穂ずれおもたし稲運び

返り咲く菖蒲のありぬ秋の水

うち立てて七夕色紙散るもあり

かけ流す願の糸のおもはゆし

たてまつる星の薫よもすがら

洗ひたる硯にほそき筆二本

星合やひそかに結ぶ芝のつゆ

七夕竹流すに出逢ふ旅路かな

芋の葉の露うけこぼす硯かな

草市や宵一ときの通り雨

震災忌昼餉の心暗うしぬ

盆燈籠真白き房に風見えて

遅月や夜毎にほそる虫の声

袖につく秋の蚊ひとつ針仕事