逢ひみたき人は遠さよ初嵐
秋の蚊帳たゝめば落ちし蛾のむくろ
吊案山子風に吹かるゝ裳かな
高原や桔梗ゆゝしき濃紫
雁来紅丈けの揃はぬ風情かな
羅漢寺の障子あきをり薄紅葉
滝川の淵しづかなる紅葉かな
木の実降る幹静かなる大樹かな
秋深く遊ぶ銭なき学徒かな
秋袷仕立かへたるしつけ絲
雲を出し月上弦や星祭
こそばゆくとんぼに指を噛ませけり
水底やゐざりし鯊に砂うごく
爽かに病むやみとりの人もなく
尼ごぜのつむりのあをき秋日かな
行く秋や思ひ返して出さぬ文
菊雛み袖寒げにおはすかな
起き出でてなつかしの世や秋袷
かたくなに開かぬ小さき柘榴かな
朝顔に寝乱れ髪の櫛落ちぬ
手にとればあへなきつゆや草のさき
拾ひたむ庵の零余子や昨日今日
栗焼くやまこと淋しき山住ひ
蜩や泊るつもりにしづ心
吹く風や鳴きとぎれたる秋の蝉