和歌と俳句

高橋淡路女

逢ひみたき人は遠さよ初嵐

秋の蚊帳たゝめば落ちし蛾のむくろ

案山子風に吹かるゝ裳かな

高原や桔梗ゆゝしき濃紫

雁来紅丈けの揃はぬ風情かな

羅漢寺の障子あきをり薄紅葉

滝川の淵しづかなる紅葉かな

木の実降る幹静かなる大樹かな

秋深く遊ぶ銭なき学徒かな

秋袷仕立かへたるしつけ絲

雲を出し月上弦や星祭

こそばゆくとんぼに指を噛ませけり

水底やゐざりし鯊に砂うごく

爽かに病むやみとりの人もなく

尼ごぜのつむりのあをき秋日かな

行く秋や思ひ返して出さぬ文

菊雛み袖寒げにおはすかな

起き出でてなつかしの世や秋袷

かたくなに開かぬ小さき柘榴かな

朝顔に寝乱れ髪の櫛落ちぬ

手にとればあへなきつゆや草のさき

拾ひたむ庵の零余子や昨日今日

焼くやまこと淋しき山住ひ

蜩や泊るつもりにしづ心

吹く風や鳴きとぎれたる秋の蝉