和歌と俳句

飯田蛇笏

心像

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はつ日出て岬のしりぞく海波かな

ひとりゆく砂丘の雪や大初日

瀧の端のやぶたちばなや春の雪

鍬ふるふ学徒は派手に春の土

小駅の薄暑にキャベツ玉むすぶ

耕牛に多摩の磧べ咲けり

多摩みちの野茨うつる鮠の水

桑の實や奥多摩日々に小雷

くちなしに傘さしいづるあめのおと

野いばらのあをむとみしや花つぼみ

埃りだつ野路の雨あし夏あざみ

籠にして百草夏のにほひかな

小降りして山風のたつ麦の秋

蕗ひたる渦瀬にかかり鮠をつる

座右の書に麦の秋風かよひけり

病窗に神座の雲や夏ふかむ

秋の富士日輪の座はしづまりぬ

渓べまで夕雲下りくる秋の嶽

嶋々のみたまを夢に秋の風

やまびこのひとりをさそふ拾ひ

苔庭に冷雨たたへてうすもみぢ

萬斛のつゆの朝夕唐がらし

晴るる日も畑霑ひて唐辛子

豊穣の日和をくだる棚田径

白菊のあしたゆふべに古色あり